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リューデスハイムの雪解け

ある年の冬、カール大帝が現在のラインガウの対岸にあるインゲルハイムの居城に滞在していた時、吹きすさぶ北風であたり一面、深い雪に埋もれていた。やがて春が近づいたある日、遠くに見えるリューデスハイムの南向きの丘の一角の雪が融け、銀色に輝く景色の中で小さな黒い染みのように岩肌がむき出しになっていた。その染みが日ごとに広がっていく様子を見たカールは、あのあたりに葡萄を植えたらどうだろうか、と考えた。



春になるとカールはオルレアンから葡萄の苗木を取り寄せ、リューデスハイムの斜面を開拓し、葡萄を植えさせた。それは見込み通りにすくすくと育ち、3年半の後には最初の収穫が大帝に捧げられた。ワインが樽の中で熟したころ、インゲルハイムの居城で各地のワインを取り寄せてのワイン比べが開催された。ヴェスヴィオ山近郊の炎の様なワインや、ギリシャの銘酒に加え、ブルゴーニュやモーゼルからのワインも供されて、どれも大いに賞賛されたが、最も高い誉れを勝ち取ったのはリューデスハイムの赤であった。それはどのワインよりも強く、香りは他の全てのワインをあつめたほどであったという。

 


今でもラインガウの葡萄農民たちは、恵まれた年は大帝のお陰だと信じている。

葡萄の花の咲くころ、カール大帝の霊が訪れ、ライン河沿いをゆったりとした足取りで葡萄を祝福していったのだ、と。

 

 

 

 

参考文献:Christine und Dietmar Werner, Die schoensten Sagen vom deutschen Wein, Husum 1999.

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