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ヨハニスベルクの奇跡

1716年にヨハニスベルクがフルダの修道院に売却されてからというもの、葡萄畑の世話をしていた修道士たちには受難の日々が始まった。それというのも、フルダの大修道院長にして貴族でもあったコンスタンティン・フォン・ブットラーは厳格極まりない男で、ヨハニスベルクの葡萄畑と酒蔵を管理するための査察役人を、うんざりするほどひんぱんに送ってよこしたからだ。


主の恩寵により天候に恵まれたある年、豊かに実った葡萄を収穫するために修道士達はせわしなく働いていた。ところが、不運なことにいくつかの葡萄畑では、まだ最初の一房さえも収穫していないというのに、思いがけないほど早く初霜がおりた。そんな時、よりによってフルダからの査察役人の来訪が告げられた。

 


修道士達は朝から晩まで熱心に働いていたので、ケチをつけられる謂われはないと思ったものの、何はともあれ大事をとって、査察役人をすでに収穫の終わった畑へ案内することに決めた。だが、役人の耳に悪魔が耳打ちでもしているかのように、まだ手つかずの、半ば凍りかけた葡萄が至る所にぶらさがっている畑へと馬をすすめるではないか。

 

 

査察の後、集会所に集まった修道士達を前に、役人は院長をこっぴどく叱責し、このように怠惰な者達にまっとうなワインを飲ませるわけにはいかん、今すぐ収穫作業にとりかかれば、あの半ば凍って腐りかけた葡萄からもいくばくか飲めるワインが取れるであろう、翌年はそれでしのぐがよい、とのお達しを残して去っていった。修道士達がやり場のない憤懣をどうやってぶちまけたかは、定かではない。



さて翌年、くだんのワインが仕上がって院長のグラスに注がれ、最初の一口を飲んだとたん、彼の憂鬱そうな表情がぱっと輝いた。院長に続いて試飲した修道士達も口々に賛嘆の声を上げた。

 

「奇跡だ!」
「主が熱心な仕事ぶりを認めて下さったのだ!」
「かじかんだ指で収穫した苦労を報いてくださったのだ!」

 

と口々に神を賛美した。そして皆、これは今まで飲んだことのないほど高貴なワインであるとの意見で一致した。


その年から、修道士達はわざと霜がおりるまで収穫の一部を畑に残しておくようになった。そうして奇跡と思われた結果が再びもたらされ、貴腐ワインの秘密が発見されたということである。

 

 

参考文献:Christine und Dietmar Werner, Die schoensten Sagen vom deutschen Wein, Husum 1999.

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