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葡萄畑の悪魔

モーゼル中流、ブラウネベルクにほど近いフィルツェン村に伝わる昔話。

 


収穫を間近に控え、畑に葡萄がたわわに実る頃、昔は交代で夜通し晩をするのが普通であった。村の修道院の二人の下男も見張りをするよう申しつかったのだが、そのうち一人は畑へむかう道すがら、どうしたらあの退屈な役目をさぼることができるか思案した。そして畑に着くと、葡萄畑に住んでいるという悪魔に呼びかけたのである。


「悪魔様、悪魔様、私に代わって葡萄畑を見張ってくださいませんか。」

するとたちまち、まるで地面からわき出たかのように悪魔が下男の前に現れた。

「引き受けてもいいが、何をもらえるのかね。」
「かごいっぱいの葡萄をさしあげましょう」と下男は答えた。「日暮れから夜明けまでお願いしますよ。もし誰かが葡萄畑に入り込んだら、首をへし折ってください!」

よろしい、と悪魔は承知し、下男はやれやれと修道院へひきあげた。


修道院に戻った下男は、折悪しく院長に出くわした。見張りのことを問いただされて答えて言うには、"親友"に代理を頼んできたのだという。見張りをしているのが実は悪魔だということは、無論口に出さなかった。だが、男の言い分に院長は納得せず、再び畑へと追い返した。


真夜中、下男は相棒の下男と一緒に葡萄畑の見張り台に登った。すると突然奇妙な物音がした。それは、誰かが生い茂った葉をかきわけて畑を歩き回っているようにも聞こえた。悪魔との約束を知らない方の下男は相棒に言った。


「おい、盗人が畑をうろついてるんじゃねぇか。」
「大丈夫だよ。」
「大丈夫って、何でそんなことがわかるんだよ。」
「それは、つまり、その...。」


悪魔と約束を交わしたなどとは、おおっぴらには言えなかった。

「ちょっと見てくる。盗人ならとっちめてやらないと。」
「おい、まてよ。俺が行って来る。」

事情を知らない相棒を畑にやって、悪魔の餌食にしてしまうのも忍びなかった。約束を交わした本人なら、悪魔も手を出さないだろうと考え、下男は松明を手に葡萄畑へと向かった。ゆらゆらと揺れる炎はしばらく斜面を登っていったが、そのうちふと見えなくなり、一面の闇が広がった。



翌朝、下男は自ら悪魔と交わした約束通り、首の折れた姿で発見された。村人は、だから収穫期に夜中に葡萄畑へ行ってはいけないよ、と村の子供達にさとしたことであろう。

参考文献:Christine und Dietmar Werner, Die schoensten Sagen vom deutschen Wein, Husum 1999.

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