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ザール川沿いの葡萄畑。左からヴィルティンガー・クップ、ブラウネ・クップ、ゴッテスフース、クロスターベルク。

地形にちなんだ葡萄畑

モーゼルのワイン農家では、葡萄畑をヴァインベルクWeinberg(ワイン山)ではなくヴィンゲルトWingert(ワイン園)とも呼ぶ。ヴィンゲルトという語は古高ドイツ語のwingartoに由来し、今日の英語ヴィンヤードvineyardの語源である。これはローマ時代にモーゼルの葡萄畑は集落内の庭園か平地にもあったこととも関連があるようだ。

ライLayまたはレイLey(例えばベルンカステラー・ライ)という畑名は、ギリシア語で石を意味するラースlaasに語源があり、それはガロロマン語にライアlaiaとして受け継がれ、岸壁あるいは石(モーゼルではほとんどがシーファー(スレート粘板岩)であるが)を意味した。ライと同じく岸壁を意味する畑名フェルスFels(例えばヴィルティンガー・ブランフェルス)は古高ドイツ語でfelis(フランス語で巨岩を意味するfalaiseに通じる)、その語源はギリシャ語のペラpellaである。

石を意味するシュタインSteinの語も希に用いられており、ヴァイセンシュタイン(Weissenstein[白い石]/クース)、フォン・ハイセン・シュタイン(von heissen Stein[熱い石]/ライル)、シュタインヒェン(Steinchen[小石]/カッテネス)、アウソニウスシュタイン(Ausoniusstein/レーメン)がある。

 

ラテン語で酒器を意味するcuppaに由来するクップの畑名はアイル、ヴィルティンゲン、オックフェン、ザールブルグ、トリアー、ヴィットリッヒにあり、その他クロイツヴァイラーにはシュロス・トーナー・クップ、ヴィルティンゲンにはブラウネ・クップの畑がある。いずれも大地に杯を伏せたような形状の畑だ。ヘルドHeld、ヘレHoelle、ヘーレHoehleという畑名は炭坑を意味するハルデHaldeから来ている。ヘルドと呼ばれる畑はメスニッヒ、ケン、ペリッヒ、ケヴァリッヒにあり、ヘレはヴィルティンゲンとアルフに、フックスヘーレ(きつねの穴)はコバーン・ゴンドルフにある。

 

テルニッヒにあるリッチRitschという畑は滑落を意味するルッチruetschに由来し、中高ドイツ語のsteinrutzeすなわち岸壁から導かれたものと思われる。ヴィニンゲンのハムHammはラテン語のhamusすなわち湾曲を意味し、牛のくびきやツェルでモーゼルが湾曲するあたりもハムと呼ばれる。グラーベンGrabenあるいはグルーベGrubeも畑の形状に由来するが、ドイツ語でグラーベンは「掘り下げる」を意味するものの、大抵は逆に日当たりの良い斜面にある(ベルンカステラー・グラーベン、ブラウネベルガー・マンデルグラーベン、ノイマーゲナー・エンゲルグルーベ、エンキルヒャー・エレングルーブ、メスニッヒャー・ゴルトグリューブヒェン)。

 

恐らくは周囲の畑と相対的に引っ込んだ地形だからであろうか。絶壁を意味するハングHangの語は、モーゼルでは急斜面が多いにもかかわらず、伝統的な畑名には用いられていない。唯一コッヘム近辺の集合畑(グロースラーゲ)にローゼンハング(バラ色の絶壁)という名があるが、1971年にグロースラーゲがドイツワイン法で定められた際に考案されたものである。同様にヒューゲル(丘)という畑名もモーゼルにはない。ラテン語由来の畑名にはブレムのカルモントCalmont(calvus mons, 禿げ山)が有名だが、禿げ山ではなく熱い山(calidus mons)に由来するという説もある。

 

 

 

参考文献:Karl Christoffel, Die Weinlagen der Mosel und ihre Namensherkunft, Trier 1979.

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